牛田南の家

日本

二葉山を望む、小さな庭のある暮らし
敷地は広島市内の住宅地。小さな車がようやく通れるほどの道路に面し、周囲の建物が近接する26坪の敷地である。一般的には建蔽率いっぱいに建て込むことが多い条件だが、ここではあえて道路側に余白を残して植栽を施した。通りに潤いを与える小さな庭であり、時には駐車スペースとしても働くその場所は、街にひらかれた表情をもたらしている。さらに2階のテラスにも植栽を配し、緑と建築が渾然一体となった外観は、密集した街並みにやわらかな彩りを添えている。また隣家が迫る環境を考慮し、妻側の水下屋根をつまみ出すように伸ばすことで、視線を緩やかに調整しながら植栽に光を届けた。
内部は2階を暮らしの中心とし、南に二葉山の山並み、北に都市の空のひろがりを望むことができる。さらに、大きくとった天井高が面積以上の伸びやかさを住まいにもたらしている。
外部との関わりは暮らしを豊かにする大切な要素である。南のテラスは植栽を鑑賞する庭であり、「江波の家」と同様に手前の緑とその向こうに広がる山並みを重ね合わせることで「接庭(つぎにわ)」として働く。一方、リビング北側には「窓庭」を設け、植栽とともに都市の風景や空の広がりを楽しむことができる。
限られた面積と密集した市街地という条件を受けとめながら、敷地を丁寧に読み取り、街並みに潤いを与え、日々の暮らしの中で自然を感じられる住まい。小さなスケールの中に、都市と自然と人とが響き合う風景をつくり出すことを目指した住宅である。

© 矢野 紀行
建築家
小松隼人建築設計事務所
2023

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