松江の家

日本
松江の家 | House in Matsue | Architect 小松隼人建築設計事務所_HAYATO KOMATSU ARCHITECTS mail:info@10per-komatsu.com website:https://10per-komatsu.com/ A film by toha instagram : / toha_film website : https://toha-film.com #hayatokomatsuarchitects #japan #architecture #ルームツアー #建築
Video © 小松隼人建築設計事務所

敷地環境と寄り添う七つの庭
松江市は松江城を中心に発展した城下町であり、現在もその歴史的な風情が街並みに色濃く残る。また宍道湖・中海・堀川など多様な水辺に囲まれており、水郷都市としての特性も併せ持つ。敷地はかつての松江城下町の外堀に近いエリアに位置し、城下町の歴史的な区画割の影響が色濃く残る場所である。東西に長く、奥行約60メートル、間口約15メートルという形状は、京町家によく見られる間口3間のスケールと比べるとおよそ3倍の間口を持つ、いわば“大きなうなぎの寝床”とも言える。松江市中心部は、もともとゆとりのある区画で構成されていたが、近年では土地の細分化が進み、住宅の密集化が進行している。今回の敷地も、周囲を住宅や事務所に囲まれており、周辺環境との関係を丁寧に読み解く必要があった。
まず敷地周辺にある庭や空地の位置関係を把握し、隣地と光や風の流れを共有できるような庭の配置計画を検討した。町家では狭い間口と深い奥行きを活かし、見世庭、通り庭、坪庭、奥庭などを連続的に配置することで、自然光と風を屋内へと導く工夫がされてきた。本計画でもこの構成に倣い、路地庭から東庭まで、隣地の空地と沿うように7つの庭を点在させた。
7つの庭はそれぞれ近接する室内空間と関係づけられ、場所ごとに異なる役割を果たす。面積の広い中庭と南庭にはアウターダイニングとアウターリビングを配置し、内部、中間、外部というグラデーショナルな連続性が空間全体に奥行きをつくりだしている。またルーバーによって周囲からの視線や直射日光をやわらかく遮ることで快適な外部環境を実現している。
北庭と奥庭、 東庭は室内側に光を導き、視覚的に楽しむ庭とし、玄関に近い路地庭と西庭は豊かな街並みをつくることに貢献している。それぞれの庭には季節ごとにさまざまな草花が咲き、四季折々の彩りが楽しめる。これらの庭の景色はすべての居室から垣間見ることができ、日々の暮らしの中に自然の変化を取り込む装置となっている。
居室間の移動は明度を意図的に抑えることで、庭との対比を生み出すよう計画した。玄関ホールからリビングへと続く廊下は、地窓のみの明度を抑えた空間を通ることで、視線の先にある庭の光が一層印象的に感じられるようにした。書斎へ向かう廊下も同様に地窓とし、暗がりのなかに自然光が差し込むような静かな回廊空間を目指した。
かつての町家における庭は、単に敷地内に光や風を取り込むだけでなく、周囲にもそれらを届けるような役割を果たしていたのではないだろうか。今回のような奥行きがあり、多くの住宅で囲まれている敷地においては、より広い視野で環境をとらえ、周囲との関係性までを含めて計画に反映させることが必要だと考えている。

© 矢野 紀行
2024

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