PAL国際保育園@東京外大

東京都, 日本
写真 © 矢野紀行
図面 © 中佐昭夫/ナフ・アーキテクトアンドデザイン
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図面 © 中佐昭夫/ナフ・アーキテクトアンドデザイン
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写真 © 中佐昭夫/ナフ・アーキテクトアンドデザイン
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図面 © 中佐昭夫/ナフ・アーキテクトアンドデザイン
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建築家
中佐昭夫/ ナフ・アーキテクト&デザイン
場所
東京都, 日本
2022

東京外国語大学の構内に設計した保育園。

大学の中央広場から伸びる並木道を抜けた先に、敷地は設定されていた。そこは2mほどの高低差がある丘のような場所で、その隣に立っている学生寮を建設した際に積まれた残土が放置されたものらしいと説明を受けた。メッシュフェンスで囲って管理はされているものの、構内全体で見るとはずれに位置していて、夏には立ち入るのに躊躇するほど雑草が生い茂る。丘を二つに分けるように中央に切り通しがあり、その奥には周囲から視線が及ばないためか喫煙所が設けられていた。

このように書くとネガティブな雰囲気になってしまうが、初めて敷地を訪れたときの印象は真逆だった。広い大学の構内において中央広場から伸びる並木道の先にあるという立地はとてもわかりやすく、さらにその向こうにある構外の道路には魅力的な桜並木が整えられていたからだ。

保育園の園庭に築山をつくることはよくあるが、理事長とも相談して、今回はすでにある丘を築山として捉えることにした。園庭全体が築山であり、園児の活動や想像力を受け止める立体的なフィールドとしてポジティブに利用する想定だ。工事で土を削る量をできるだけ減らすために園舎は丘の中央から遠ざけて脇へ寄せて、桜並木のある前面道路に細長く沿わせる配置とした。丘の上に立ったときに周囲の樹々や景色を見渡せるように、園舎の屋根は低く抑えている。

屋根の軒下には屋外の廊下があり、廊下と丘は土留壁で区切っている。土工事をできるだけ減らそうとする場合、丘が高いところは土量が多いため土留壁が押されるようにして廊下が狭くなり、丘が低いところは逆に廊下を広くできるという物理的条件がある。一方で、ソファを置く溜まり場や往来が多い場所は廊下を広くして、0〜1歳児の遊び場の手前は安全確保のために廊下を狭くするといった運営的条件もあり、その両方の条件が折り合うように土留壁の位置を検討した。結果として廊下と丘は園舎長手47mに渡って7ヶ所でクランクした土留壁によって接することになり、それに合わせて軒先も伸ばしてクランクさせている。廊下に雨が入り込むのを抑えるため、土留壁の上端は丘に向けて斜めにカットした。

その廊下に面して、室内のあちこちから出入りできるように掃き出しサッシュを数多く設けている。廊下と反対の前面道路側には、桜並木の梢が見える位置にハイサイドサッシュを設けた。園舎は長手が47mあるが短手は4.5mしかないため、両側のサッシュを開ければ4.5m間で風通しを確保できる。東からの朝日に対して夏季には桜並木が日除けになり、冬期にはそれが落葉するため逆に室内に日差しが届く。西からの夕日に対しては、伸ばした軒と隣に立つ学生寮が遮ってくれる。

構造は汎用性やコストを考慮して木造とし、住宅規格の断面や長さ(6m以下)で構成している。園舎の短手は4.5mだが、そこから伸びる軒先は最大2.7mで合わせると6mを超えてしまうので、「わりばし鉄砲」のように先端で挟んだ梁をスライドさせることで長短を調整できるジョイント形式とし、クランクによって長さが異なっている軒先を同じ構造ユニットで支えられるようにしている。そのユニットを建物の長手47mに対して14セット繰り返し、そのままインテリアの意匠としている。

エントランスの脇には送迎用のバス乗り場を設けている。大学構内につくられた保育園ではあるものの、園児を大学内だけでなく周辺地域からも受け入れているためだ。日本以外にセネガル・ウガンダ・アメリカ・中国・韓国など様々な国の園児たちが通っているが、それはスタッフも同様で、たとえば給食の先生がウズベキスタン出身であることから、その郷土料理がランチで振る舞われたりもする。

丘の周りにはぐるりと車を巡らせるルートを確保してあり、バス乗り場から乗り入れることができる。移動茶室・お泊まり保育用のキャンピングカーなど、さまざまな機能がやってきて園に「プラグイン」されることで、活動の幅が広がってゆく想定だ。開園一周年記念式典ではキッチンカーがやってきて行列ができ、国際色豊かな家族連れや近隣住民が訪れ、学生によるチアリーディングのデモが多くのギャラリーで賑わっていた。

大学の中央広場は構内動線のハブであり、大学祭などのイベントではメイン会場になって出店が並ぶなど、文字どおり大学の活動の中心になっている。そこから伸びる並木道の先に「保育」という活動を付加する今回の設計では、中央広場に対して「もうひとつの広場」をつくることをコンセプトに掲げた。高さを抑えた木造園舎を放置されていた丘の向こうに寄り添わせることで場を再構成し、その場での保育活動自体を並木道の先の風景とする、というのが設計の基本姿勢だ。先に挙げた一周年記念式典の賑わいは、それが育まれつつあることを感じさせるものだった。

このように「もう一つの広場」を中央広場と繋ぐことが、両者の特徴を際立たせ、新たな価値や面白さを生む下地になるのではないかと期待している。保育園理事長と大学学長との会話では、「保育園の給食室でつくったランチを子供UberEatsのような形で学生に届けるのはどうか」「乳幼児教育を研究対象としている学生がインターンとして保育に参加するのはどうか」といったアイディアが当初から幾つも出ていた。すでに実現しているものもあり、これから様々な試みが展開してゆくだろう。

ちなみに建設費はクラウドファンディングによって集められたが、驚いたことに募集開始から17秒で集まり、最終的には1000人以上の投資家から目標の3倍近い申し込みがあった。設計のミーティングで大学学長から「保育園を大学に作るのが悲願だったんですよ」との話があったとき、男女比では女性の方が多いという大学内部からの期待感がとても印象に残ったが、その受け皿となるだけでなく、子供が中心となって大学の環境を活かしながら新しい価値や面白さをつくりだすことがこの保育園の特長であり、その全体像に対する期待感は大学の枠組みをはるかに超えた外部からもやって来ているということではないだろうか。

今年に入って「こども家庭庁」が設立されて「こどもがまんなかの社会」を掲げたことや、しばらく破られそうにない最短記録をつくったクラウドファンディングの結果から、きっとそうに違いないと感じている。

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