Foto © Koji Fujii

「大壁」よりも「真壁」に、さらにその先に興味がある。
構造体をその内側に隠したプレーンな面である「大壁」は空間の「ガワ(側)」を示すだけの存在に控える事でその「空間性」を際立たせるが、「真壁」は建築を成り立たせる構造を表面に突出させる事で、「ガワ」として空間を指示するだけでなく、よく構築された物質が周囲に放つ「場所性」を住環境に重ねる事ができるからだ。
そして「真壁」を超えて、さらに強い場所性を生み出すもう一つの壁のあり方として「ログハウス」がある。その名の通りログハウスの壁面は構造である「丸太材(=ログ)」だけで構成されていて、その強い物性が濃密な「場所性」を発生させる。「ガワ」としてのプレーンな面のないログ壁面は、純粋な「空間」だけを表す「大壁」の対極に位置する、純粋な「場所」を表明する存在なのかもしれない(その中間にあるのが「真壁」なのだろう)。
東京都内の極めて一般的な新造分譲宅地の一画にある敷地に、夫婦二人のための住宅をデザインするにあたって我々が選択したのは、この「ログハウス」の形式である。ただし、丸太材ではなく大規模ビル建設等に用いられる700(1000)×350×16×25(32)mmという大断面H型鋼によるスチール製のログハウスだ。その巨大な重量・強度に加えて、ロール圧延によって成形されるH型鋼の工業製品ならではの数学的整形性とRのかかった入り隅部に現れる優しさといったH型鋼の「物質的性質」をログハウス状に組み上げ強化・増幅する事で、無個性な新造住宅地に、そこに積極的に住みたいと思える「場所性」を与える事を試みたのである。
それは丸太材が集積する通常のログハウスの荒々しく素朴な場所性とは異なった、理知的でありながら優しく強い、新造の都市域にふさわしい場所性の種子である。僕達は土地の新たな「よりしろ」となる事を、この鉄製のログハウスに求めたのだ。

「こわさない・こわされない」
日本では、社寺仏閣が建て替えられる際、そこで使用されていた柱や梁などの材料は「お下がり」として、他の建築物の材料として再利用されていく。社寺仏閣に限らず、この国の伝統的な木造建築では、材料は一世代の建築物で終わらずに、何世代もの建築物へと転用されリユースされていく。言い換えれば、材料は流通を続けるその一過程において、たまたま「ある建築の形」をとっているだけなのである。
その意味で、この伝統的な建築システムには廃材というものがない。限りなくゼロエミッションの理想に近い、破壊・廃棄という建築の原罪を解消する「未来の建築システム」だと言えるのではないか。
この伝統的な木造のシステムを、他の現代的な構造システムで展開できないかと考えた。今回は現代の主要な構造形式である鉄骨造を主題とした。通常、高層建築物で用いられるH型鋼(h700×w350)を校倉式に組み上げる事で、建築全体を構築している。ジョイントは簡易な高力ボルト接合なので、建設はもちろん解体まで、極めて少ない時間とエネルギーによって行う事が可能である。住居としての用途を終えた後は速やかに分解され、次の建築の一部として利用されていく。
伝統からの断絶を求めた近代以降、自然と建築は互いに「こわす・こわされる」という侵略闘争を続けてきた訳だけれど、そろそろ、その位相を越え出るべき時だろう。
「流転の中にある建築」、或は「終わらない建築」へ、向かおうと思う。

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鉄のログハウス

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Sede
東京都練馬区, Japan
Anno
2014

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